彼女達が、何故に裸を怖れるかといふことを、知りたいものがあつたなら子供達に質ねた方がいゝ、子供達はきつと真実に近いことをしやべるであらう。 ところが女達が裸を怖れなくなつたらどうだらう、けつして愉快なことではない。 或る日、私は裸を怖れないものに脅かされた。 私は朝湯の陽炎のやうに立ちあがる湯気の中に、うつとりした気持で、ごし/″\手足を洗つてゐた。 高い天井の彩色硝子に、たちのぼる湯気が凝つて、その玉が行列をつくつてゐた。 玉はひとつづゝ間隔をゝき、ぽたり、/\落てきた。 その落てくる冷たさを、額やら背やらでうけた。 女湯は寂として、たつた一人の女が、ぴちや、/\、板の上を歩き廻る気配がした。 私は足音に耳を傾けてゐた。すると不意に男湯の潜り戸があき、男湯に体の純白な女が、獣よりも身軽に躍り込んで来た。『あつ』と驚いて、仰向いた私の体の上に、彼女の裸体が掩ひかぶさつてきた。 ――しまつた。牛の化物に殺られた。 瞬間、私はごつくりと、唾を嚥みこんで手近なところにあつた石鹸箱に手を掛けた。投つけようと思つたのであつた。 ところが女は私を押倒したのではなく、飛越えて湯槽の向ふに行つたのだ。 ――爺さん、流しませうか、こつち背中向けなされ。 湯気の中から、ざら/″\とした触感の女の声がした。 ――垢も無いやろ、ざつとでいゝぞえ。 湯気の中の今度は男の低い声だ。ミシェルマカロン Forum-ID8203 ? Beispiel-Forum / Example Forum ? powered by ASP-FastBoard