「多代子さんは一月の十日、自動車に乗って御年始に来てくれました。その時に、この二十日ごろから熱海へ行くという話があって、今度は長く滞在することになるかも知れないから、当分はお目にかかれまいと言って帰りました。あとで考えると、よそながら暇乞いに来たらしい。それを思うと、突然の発狂などではなくて、前々から覚悟していたのでしょう。その日はあいにくに、次郎も娘も留守だったものですから、皆さんにお目にかかれないのが残念だなどとも言っていました。」 奥さんは更にこんなことを私に洩らした。「あなただからお話を申しますけれど、多代子さんの死骸が海から引揚げられた時に、警察で検視をすると、左の二の腕に小さい蛇の刺青《ほりもの》があったので、みんなも不思議に思ったそうです。立派な実業家の奥さんの腕に刺青があったのですから、誰でも意外に思う筈です。勿論、深見さんの方から警察へ頼んだので、刺青のことなぞは一切《いっさい》発表されませんでしたから、その秘密を知っているのは私たちぐらいでしょう。新聞社でもさすがに気がつかないようでした。」ゴミ屋敷 馬鹿も休み休み言え ? Forum anzeigen ? Testforum