娘はさきおととい行くえ不明となった。それがおとといの晩、ふらりと帰って来て、すぐに又その姿を隠してしまった。そうしてゆうべまた帰って来たかと思うと、今度は母を殺して逃げた。これには余程こみいった事情がまつわっていなければならないと想像された。「そうして、娘はどうした」「どうしたか判らないんです」と、お竹はまた泣いた。 かれが泣きながら訴えるのを聞くと、ゆうべも前夜とおなじ燈ともし頃に、お菊はわが家へおなじ形を現わした。今度はどこからはいって来たか判らなかったが、奥でおかみさんが突然に「おや、お菊……」と叫んだ。つづいておかみさんが悲鳴をあげた。お竹とほかの女中二人がおどろいて駈けつけた時に、縁側へするりと抜け出してゆくお菊のうしろ姿が見えた。お菊はやはり黄八丈を着て、藤色の頭巾をかぶっていた。楽天市場 プレゼント 夢彩工房 BS日テレ プレゼント