踊り家台の見物よりも、強飯の御馳走よりも、わたしに取ってはそれが何よりも嬉しいので、すぐにその尾について又いつもの話をしてくれと甘えるように強請むと、また手柄話ですかと老人はにやにや笑っていたが、とうとう私に口説き落されて、やがてこんなことを云い出した。「あなたは蛇や蝮は嫌いですか。いや、誰も好きな者はありますまいが、蛇と聞くとすぐに顔の色を変えるような人もありますからね。それほど嫌いでなけりゃあ、今夜は蛇の話をしましょうよ。あれはたしか安政の大地震の前の年でした」 七月十日は浅草観音の四万六千日で、半七は朝のうす暗いうちに参詣に行った。五重の塔は湿っぽい暁の靄につつまれて、鳩の群れもまだ豆を拾いには降りて来なかった。朝まいりの人も少なかった。半七はゆっくり拝んで帰った。 その帰り途に下谷の御成道へさしかかると、刀屋の横町に七、八人の男が仔細らしく立っていた。半七も商売柄で、ふと立ちどまってその横町をのぞくと、弁慶縞の浴衣を着た小作りの男がその群れをはなれて、ばたばた駈けて来た。歯科 ホームページ制作 孔子も時に会わず