虎の子が飛んでもない悲劇を生み出すことになったが、それでも其の秘密は世間に洩れなかったと見えて、友蔵の小屋は相変らず繁昌していると、ここにまた一つの事件が起った。今度は大事件だ。」「人殺し以上の大事件ですか。」「むむ、その時代としては大事件だ。虎の子の観世物は十月から始まって、十二月になっても客は落ちない。女房に死なれても、商売の方が繁昌するので、友蔵もまあいい心持になっている。それで済ませて置けば無事であったが、おいおい正月も近づくので、ここでいっそう馬力をかけて宣伝しようという料簡から、この虎の子は御上覧になったものだと吹聴した。千里の藪で生捕りましたなぞは嘘でも本当でもかまわないが、御上覧というと事面倒になる。すなわち将軍が御覧になったというわけで、実に途方もない宣伝をしたものだ。それが町奉行所の耳にはいって、関係者一同は厳重に取調べられた。宣伝に事欠いて、両国の観世物に将軍御上覧の名を騙るなぞとは言語道断、重々の不埓とあって、友蔵と幸吉の兄弟は死罪に処せられるかという噂もあったが、幸いに一等を減じられて遠島を申渡された。他の関係者は追放に処せられた。」差し歯 馬鹿も休み休み言え ? Forum anzeigen - Testforum